TOPICS
「予算ゼロ 権限もゼロ 評価ゼロ」「コンサルに 予算つくのに 僕たちは」「気づいたら 既存事業の 一機能」―これらは、新規事業担当者たちの深いため息を表した「新規事業あるあるカルタ」の一節です。300を超える新規事業に伴走してきたbridgeのプロジェクトデザイナー・大長伸行が、新規事業担当者の皆さんから寄せられる疑問や不安にお答えします。
今回のテーマは「なぜ既存事業が優先され、新規事業が思うように進まないのか?」。そんな“憂い”をどう乗り越えればいいのか、そのヒントを探っていきましょう。
――社内で新規事業活動に十分なリソースが割けず、年々先細っていくような状況が起きてしまって……。これってよくあることなのでしょうか?
大長:よく分かります。実は、多くの企業で同じような状況が起きているんですよね。孤立というほどの深刻な状況ではありませんが、新規事業チームが既存事業から十分な協力を得られないケースは頻繁に見られますね。
――なぜこういった状況が起きてしまうのでしょうか?
大長:大きな理由のひとつは、「新規事業をどう評価するかの基準が曖昧」だからです。企業では四半期ごとの利益を重視することが多く、新規事業のように長期的スパンで成果が見込まれるものは評価対象から外れがちです。結果的に「目に見えて成果を生む既存事業に投資しよう」という動きになりやすいわけです。
――やはり新規事業は評価されづらく、予算も得にくいんですね。結局、中止になってしまうケースも多いのでしょうか?
大長:はい。組織が短期的な利益を求める構造だと、新規事業のように時間をかけて検証する必要がある取り組みは優先順位が下がりがちです。事業部長クラスがPL(損益計算書)の数値で評価される以上、予算を削減しつつ確実なリターンが見込める活動を選びやすいんです。そうなると、新しい価値の探索や検証といった不確実性の高い領域には予算も人員もなかなか回らないんですよね。
新規事業担当者の多くが直面する課題を、私たちは「新規事業あるあるカルタ」として表現してきました。これらの課題に対し、どのような背景があるのか、またその解決の糸口はどこにあるのかを、以下で詳しく見ていきます。
――「新規事業あるあるカルタ」の「予算ゼロ 権限もゼロ 評価ゼロ」という句に心当たりがあります。既存事業との違いについて教えていただけますか?
大長:よくある悩みですね。既存事業では、例えば1000万円の広告費用の申請であっても、過去の実績に基づいて効果を予測できるため、予算が通りやすい傾向にあります。一方で、成果が不確実な新規事業の場合、たとえ100万円の予算申請であっても、その使途や効果について詳細な説明を求められることが多いんですよね。
―― 新規事業担当には予算決定権もなく、なかなか思うように進められません。どうすればいいでしょう?
大長:大切なのは「アイデアの良さ」だけで勝負するのではなく、「実行する人物としての信用残高を高める」ことです。新規事業は「誰がやるのか」が非常に重要なんですね。スタートアップに投資する際も、事業アイデアより起業家自身の能力や実績を重視するように、企業内でも「この人なら任せられる」という信頼があるかどうかで、予算の通りやすさが大きく変わってきます。結論、事業アイデアは途中で何度も方向修正することになります。それでもこの人はやり遂げるか?を見ているわけです。
――何か参考になる事例はありますか?
大長:はい。ヘアカラーなどでおなじみのホーユーさんの事例が皆さんの参考になると思います。同社化粧品研究員の堀江さんは、「One st.」という美容液事業を立ち上げ、YouTubeチャンネルとコミュニティを活用した商品販売で立ち上げに成功しました。当初は社員がYoutube運用することに懸念の声もありました。しかし、堀江さんの独自のSNSでのスキルセットや実績、行動力が徐々に社内で認められていき、その後はチームが編成され、事業開発活動予算も承認されるようになりました。このように、「この人なら任せられる」という信用残高が積み上がると、予算承認や意思決定のスピードは格段に上がるのです。
――「コンサルに予算つくのに 僕たちは」という句にも共感をおぼえます。なぜこういった状況が起きるのでしょうか?
大長:よく聞くお悩みです。大手コンサルティング会社に依頼すると、1ヶ月で結果を出してくれる可能性が高い。一方で、新規事業は不確実性が高く、成果がいつ出るかも分からない。企業としては「短期で確かなリターンを得たい」と考えるため、コンサル予算は通りやすいのに自社での実験的取り組みには渋くなるわけです。
――既存事業の販促費は認められるのに、新規事業では認められないことが多いのですが、どう考えればよいでしょうか?
大長:既存事業の販促は投資対効果が明確だからです。一方、新規事業の販促は「リターンがどれくらいあるか不透明」と見られがち。そこで重要なのが、具体的な目的と期待効果の説明です。「SNS広告を試したい」ではなく、「その施策がなぜ今、必要なのか」「それによって何が検証されるのか」といったことを明確に示すと、社内の理解を得やすくなります。
――新規事業として立ち上げようとしていたのに、結局既存事業のいち機能になってしまうという話もよく聞きます。どのように考えればよいでしょうか?
大長:新規事業をどの部署で進めるかは、実はとても重要な問題です。「とりあえず関連しそうだからヘルスケア部門で…」という安易な判断をすると、既存事業の延長線上に組み込まれてしまい、結局イノベーションが起こりにくい構造に陥ることもあります。
――では、どの部門で実施すべきか、どう判断すればよいでしょうか?
大長:提案者自身が「なぜこの部門が最適か」を具体的に考え、事業の成長戦略と絡めて説明することが重要です。どんなリソースを使い、どの顧客層をどう開拓するのか、部署ごとの強みは何か――これらを整理しないと、新規事業は既存事業の一機能として埋もれてしまいやすいですね。
多くの場合、アイデアだけではなかなか動きません。どれだけ有望なビジネスプランでも、「この人ならやれる」と思ってもらえなければ、必要な予算や権限は得にくいのです。
こうして少しずつ知見や行動力、実績を積み重ねることで、社内での信用残高が高まり、「この人になら任せても大丈夫だ」と思ってもらいやすくなります。
既存事業の目標達成が優先されがちな環境でも、少しずつ社内の理解を得るコツはあります。最初から大きな承認を求めるのではなく、動ける範囲で試行錯誤を行い、その過程を可視化・共有しながら信用残高を積み上げていきましょう。
次回は「プロジェクトがなかなか進まない」というお悩みについて取り上げます。新規事業担当者の皆さん、ぜひお楽しみに!