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こんにちは、bridge代表の大長です。本連載「新規事業を自走する組織になるための解体新書」もいよいよ今回で最終回を迎えました。このシリーズでは、私たちbridgeがこれまでの経験の中で学んできた「新規事業を自走できる組織」に必要な考え方や取り組みを、9回にわたってお届けしてきました。今回はその総仕上げとして、「カルチャー」をテーマに取り上げます。
新規事業を継続的に生み出せる組織と、そうでない組織の違いは何でしょうか?組織構造やプロセス、モチベーションなど、さまざまな要素が影響を与えますが、最も大きな要因の1つが「カルチャー」にあります。
これまでも何度か取り上げてきたように、最も考慮しておかなければならないのは「新規事業を自走化できる組織になるには時間がかかる」という点です。組織全体で新規事業を生み出し続けるためには、短期的な施策だけでは難しく、組織のカルチャーを育むための長期的な視点が求められます。一方で、一度醸成された新規事業特有の組織カルチャーは、持続的な競争力を生み出し、新規事業創出の基盤となることは多くの企業が既に証明しています。今回は、「風土」「思考」「視点」の3つの観点から、カルチャーの重要性と具体的な取り組み方を掘り下げていきます。
多くの大企業では、その組織風土がトップダウン型かボトムアップ型のどちらかに偏りがちです。トップダウン型では経営層がすべてを決定し、現場の声が届きにくくなり、社員が受動的な姿勢に陥るリスクがあります。一方、ボトムアップ型に偏ると、現場発の提案が多岐にわたりすぎて意思決定ができないまま、全体の方向性が見えなくなる場合があります。
新規事業を自走できる組織は、この二極化を避け、トップダウンとボトムアップを融合した「双方向型」の意思決定プロセスを持っています。たとえば、サイバーエージェントの「あした会議」は、その成功事例の1つです。この会議は、社員が経営課題や新規事業の戦略を提案する場として、藤田晋社長自らが議長を務める直接的な対話の場となっています。
この仕組みのポイントは、「現場の社員がリアルな課題やアイデアを提案できる」ボトムアップの仕組みと、「経営層が迅速に意思決定を下す」トップダウンの力が共存していることです。具体例として、あるプロジェクトが会議内で提案されると、その場で実行判断がなされ、責任者が即座に任命されます。その結果、課題提起から実行計画までのスピードが飛躍的に向上し、現場のモチベーションも高まります。
大企業の新規事業担当者にとって、こうした双方向型のプロセスは大きな示唆を与えるはずです。現場の提案を活かしつつ、経営層がその提案を迅速に判断する仕組みを作ることで、組織全体が一枚岩となり、新規事業を推進するエネルギーを生み出せるのです。
多くの従来型の組織では、「失敗=責任追及」という文化が根付いており、自然と挑戦を抑制してしまう組織の空気感が醸成されがちです。その結果、社員はリスクを恐れて守りの姿勢になり、組織全体のイノベーションが停滞します。一方で、新規事業を自走できる組織では、失敗を次の成功の糧として捉える「失敗を許容する実験的な思考文化」が浸透しています。
例えば、ダイヤモンドオンラインの記事「実験の力でビジネスの成功率を向上させる」では、「リスク過敏症はむしろリスクを拡大させる」という指摘がされており、多くの経営陣が実験のリスクを過剰に恐れるのは、実験自体が本当にリスキーだからではなく、その技術やターゲット顧客の理解不足が原因であると言われています。また、多くの大企業では、少額であっても実験に予算を割り当てることが難しいという現実があり、「その実験の成功確率が10%しかない」と上司に告げた場合、潜在的なポテンシャルがどれだけ高くても承認を得るのは極めて難しいという課題があることも言及されています。
こうした「リスク過敏症」の環境では、「未知=棄却」となりがちで、新規事業の芽が育つ前に摘み取られてしまうことが少なくありません。しかし実際には、少額の実験であれば、たとえ失敗したとしても企業全体への影響は軽微です。それにも関わらず、過剰な承認プロセスが障壁となり、多くの挑戦が封じられているのです。
失敗を許容する文化を持つ組織では、こうした障壁を取り払い、実験的な取り組みを奨励しています。リスクを正しく評価し、現場が小規模な実験を迅速に開始できる環境を作ることで、大きな成果につながる可能性が広がります。大企業の新規事業担当者としては、「小さな実験の成功確率ではなく、そこから得られる学びの価値」に目を向ける姿勢が求められるのです。
多くの大企業では、社内のルールや価値観に閉じこもりがちで、社外との接触が限定的です。これにより、外部のトレンドや新しい価値観を取り入れる機会を逃し、結果として変革が停滞する傾向があります。
これに対し、自走できる組織は、意図的に社外との接点を増やし、異文化の体験を取り入れることで自社のカルチャーを進化させています。その一例として、「ONE JAPAN」という越境組織の取り組みがあります。ONE JAPANは、日本の大企業で働く若手や中堅社員が垣根を越えて集まり、新たな価値を生み出すことを目的としたコミュニティです。
インタビュー記事:「大企業の若手だった僕らが5年でできたこと、できなかったこと。そしてこれから」で、ONE JAPAN共同発起人の濱松誠さんはこんなことを言っています。
「越境組織から新たな事業が多く生まれ、憧れやロールモデルとなり、人や土壌が育って、カルチャーを作る。さらに5年、10年、それ以上かかるかもしれませんが、これを循環させていくことに間違いはないと思っています。」
社外で得た視点や体験は、社員個人の成長だけでなく、自社に持ち帰ることで、最終的には自社のカルチャーを変革する強力な原動力となります。大企業が新規事業を育む上で重要なのは、こうした「外からの刺激」を自社内に持ち帰り、実際のイノベーションにつなげることなのではないかと考えています。
新規事業を生み出すには、自社や業界の枠を超えて新しい視点を取り入れることが大切です。
その第一歩は、ひとりの社員が「越境」することから始まります。
たとえば、社内起業家が集まるコミュニティに参加してみる、新規事業に特化したアクセラレータープログラムに応募してみる。こうした場で外部の知見や他社の成功事例に触れることで、自社では気づけなかった新たな視点やアイデアが得られます。
それは、自分自身の成長だけでなく、組織全体に新しい刺激をもたらすきっかけになります。
でも、外で得たことをそのままにしておくだけではもったいないですよね。
それを社内でシェアしたり、日々の業務で少しずつ試してみたりすることで、自然と組織全体に新しい考え方が広がります。
そして、それがまた別の社員を巻き込み、新規事業に興味を持つ「関係人口」を増やしていくことにつながります。関心を持つ仲間が増えれば、組織の中に挑戦の輪が広がり、全体として挑戦しやすいカルチャーが生まれていくのです。
越境は、ひとりでも始められるアクションです。一歩外に出て、外の世界とつながることで、その経験が自分自身や組織にとって大きな変化の種になるかもしれません。
まずは一歩を踏み出してみませんか?
ここまで「新規事業を自走する組織になるための解体新書」をお読みいただき、ありがとうございました!
全10回にわたり、新規事業を成功させるための組織づくりについて、一緒に考えを深めてきましたが、いかがでしたでしょうか?皆さんの現場で「これならできそう!」と思えるヒントが見つかっていたら、とても嬉しいです。
新規事業を動かすのは、結局のところ「人の力」です。
そしてその原動力になるのは、「挑戦してみたい」「変えたい」という熱意やワクワク感だと、私たちは信じています。
私たちbridgeも、これからも皆さんと一緒に新しい挑戦を応援し続けます。
一人ひとりの挑戦が、組織を動かし、やがて大きな変革につながるはずです。
少しでも背中を押せていたら幸いです。
最後に、ここまで読んでくださったことに、心からの感謝を。
これからもぜひ、一緒に未来をつくっていきましょう!
bridge代表
大長伸行
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Vol.0 • はじめに:新規事業を自走する組織とは
Vol.1 • コミットメント: 経営陣の本気度が新規事業の成否を決める
Vol.2 • 方針と目標: 成功への道筋を示す新規事業のフェアウェイとOB
Vol.3 • 仮説検証: 小さく試して、早く学ぶ!失敗を恐れない挑戦術
Vol.4 • プロセスと支援体制: 新規事業を動かすプロセスとサポートの仕組み
Vol.5 • 意思決定: 0→1を実現するための決断と判断基準
Vol.6 • スキル・ナレッジ: 組織全体でスキルと知識をアップデートする方法
Vol.7 • 評価マネジメント: 成功を見逃さない!フィードバックと報酬の最適化
Vol.8 • 社内連携: 部門の壁を超えて、リソースをフル活用するコラボの力
Vol.9 • モチベーション: 新規事業の熱を高める社員のやる気スイッチ
Vol.10 • カルチャー: 挑戦を支える強い組織文化の育て方