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Vol.9 組織の自走化:モチベーション

こんにちは、bridgeの大長です。本連載「新規事業を自走する組織になるための解体新書」では、企業が新規事業を自走できる組織になるために必要な10の観点に焦点を当て、それぞれのテーマについて具体的な事例をもとに紹介しています。今回の第9弾では、新規事業推進に欠かせない「モチベーション」をテーマに深掘りしていきます。

先日、11月18日(月)に発売された雑誌「Ambitions」の最新号は読まれましたか?特集のテーマは「社内起業家」。会社に所属しながら新規事業を立ち上げ、推進している人々のリアルな姿が取り上げられています。僕自身、「社内起業家」だけで1冊の雑誌が成立するのか?と半信半疑で手に取りましたが、多くの気づきがありました。新規事業を推し進める背景には、市場の成熟化や競争の激化など企業側の喫緊の課題がありますが、働く個人としても「新しい何か」に取り組む意義や楽しさみたいなものに気付かされ、モチベートされる1冊でした。

一方で、本連載で取り上げてきたように、社内で新規事業を立ち上げ、成長させるのは容易ではありません。特に、今回のテーマでもある「社員のモチベーションの維持」は、根強い課題だと言えるでしょう。新規事業は成功の保証がなく、試行錯誤を重ねる中で進むため、短期間で成果が出ることは稀です。結果として、挑戦者たちが不安や孤独を感じ、モチベーションを失ってしまうことも少なくありません。また、失敗を許容しない社内文化や、既存事業との摩擦などがモチベーション低下をさらに加速させる要因となります。

その一方で、雑誌「Ambitions」に登場した社内起業家たちの姿は、モチベーションがどれだけ重要な役割を果たすかを改めて教えてくれます。困難な状況の中でも挑戦を続ける彼らの共通点は、組織やチームがモチベーションを支え合う仕組みを持っていることです。企業側が意図的にモチベーションを喚起し、支えることで、新規事業が大きな成果へとつながる可能性が高まります。

私たちもbridgeとして、多くの企業で新規事業支援に携わる中で、モチベーションが事業推進の成否を分ける重要な要素であることを強く感じています。そこで、今回の記事では、自社や自組織において新規事業をどうモチベートし、挑戦を続けられる組織を作るのかについて、「会社」「組織」「個人」という3つの観点でそれぞれのアプローチを考えていきましょう。

1. 会社視点:新規事業の「方針・進捗・成果」を公開する文化

新規事業へのコミットメントをどのように社外に発信していくかは、その事業に関わる人々のモチベーションを高め、組織全体に挑戦の文化を根付かせる上で非常に重要なポイントです。ここで注目したいのが、トヨタメルカリという二つの企業の取り組みです。

トヨタ自動車は、社員が生み出した新規事業のアイデアや活動をBE creation」というプラットフォームを通じて社外に発信しています。この取り組みは、単なる新規事業の紹介にとどまらず、事業の世界観やwillが前面に出されるのが特徴です。またサイト上では、事業の概要や特徴を具体的に公開し、見込み顧客や社外のパートナーからフィードバック(問い合わせ)を受ける仕組みを構築しています。これにより、社外の視点を取り入れながらプロジェクトを進めることが可能になるだけでなく、関わる社員自身が「自分の取り組みが広く認められている」という実感を得られるようになっています。事業創出活動を広く共有することで、社外の共感や協力を引き出すだけでなく、社員自身のモチベーションを高める形に設計されているのです。

一方、メルカリでは「Bold Challenges」という取り組みを通じて、新規事業に挑む社員の姿を発信しています。この取り組みの核心は、プロジェクトの進捗や成果だけでなく、そこに関わる社員の「挑戦そのもの」を外部にシェアする文化にあります。公式ブログやイベントを通じて、チームメンバーが直面した課題や、それを乗り越える過程が具体的に紹介されます。例えば、社内のエンジニアや企画担当者がどのように問題を解決し、事業化を進めているのかがストーリーとして語られ、そこから得られた知見が広く共有されるのです。また、こうした取り組みを公開することによって、外部からの期待や共感がチームのさらなるモチベーションにつながり、挑戦を続ける推進力が生まれています。

トヨタとメルカリの事例に共通するのは、ただ新規事業の結果を公開するのではなく、そこに携わる人々の働きや努力、挑戦の過程をシェアすることで、社外の関係者や顧客を巻き込み、同時に社内メンバーの士気を高める仕組みを作っている点です。このように、新規事業へのコミットメントを発信する文化は、企業が挑戦の価値を広く認識させ、モチベーションを喚起するために欠かせない要素といえます。

2. 組織視点:モチベーションを「デザイン」する

新規事業に取り組む社員のモチベーションを、組織全体でどう盛り上げるか。この課題に対して、仕組みそのものをデザインし、挑戦を文化として根付かせている代表例が、リクルートの「NewRING」です。このプログラムは、新規事業アイデアを創出する社員を応援するだけでなく、会社全体でその活動を盛り上げる工夫を徹底しており、社員の挑戦心を引き出す仕組みとして注目されています。

NewRING byRMPの創り方でも紹介されている通り、「NewRING」の特徴は、活動を広く周知し、社内での期待感を高める仕掛けにあります。例えば、社内では新規事業の募集開始時に特製ポスターを掲示したり、ロゴ入りの参加グッズを作成したりして、プログラム全体に対する関心を高めています。こうした視覚的なプロモーションは、新規事業に対する取り組みを特別なイベントとして位置づける効果があります。また、堀江貴文さん(ホリエモン)のような著名なゲストを招いてトークセッションを実施するなど、外部の刺激を社内に取り込み、参加者だけでなく観客として関わる社員たちにも「新規事業が自分ごと」であると感じさせる仕組みを整えています。

さらに、参加者がプロジェクトに集中できるようなサポートも充実しています。応募した社員は、自身のアイデアを専門家や経営陣のフィードバックを受けながら磨き上げ、必要に応じて異なる部門のメンバーとチームを組むことも可能です。最終的に選ばれたアイデアは、実現に向けたリソースや経営層のサポートを得られるため、挑戦の結果が具体的な形になるまで伴走してもらえる環境が整っています。こうした仕掛けにより、「NewRING」は単なる新規事業アイデアの創出プログラムではなく、会社全体で挑戦を称賛し、応援する文化を作る場として機能しているのです。

3. 個人視点:成果の表出化と「ヒーロー化」

新規事業に取り組む個人にとって、自らの成果が組織内外に認められるかどうかは、モチベーションを維持する上で大きなポイントです。しかし、従来の組織では、個人の努力や成果が埋もれてしまうケースが少なくありません。特に、新規事業のように結果がすぐには見えにくい取り組みでは、こうした「成果の表出化」が重要性を増します。個人の活動や成果を組織として表出化し、時には「ヒーロー化」することが、新規事業の挑戦を持続させる大きな原動力となるのです。

その好例として挙げられるのが、リコーがPR TIMES STORYを活用して社員をヒーロー化している取り組みです(詳細はこちら)。リコーでは、社内で生まれた新規事業や社員の挑戦をPR TIMES STORYというプラットフォームを通じて社外に発信し、社員一人ひとりのストーリーを前面に押し出しています。この取り組みの核心は、「個人の成果や活動を組織の物語として語る」ことにあります。

例えば、新規事業に取り組む社員がどのような背景やモチベーションで挑戦を始めたのか、そのプロセスや葛藤を丁寧に描いています。これにより、読者は単に事業の成果だけでなく、そこに携わった人々の人間味や情熱を感じ取ることができ、結果として社員自身が「挑戦するヒーロー」として広く認識されるようになります。こうして、社内だけでなく社外に向けて社員を表出化することで、外部からの注目や共感を集めやすくなり、個人の承認欲求を満たすことができるだけでなく、他の社員にとってのロールモデルとなり、「自分も挑戦してみたい」という新たな意欲を刺激する効果を生んでいます。成果の表出化が単に社員個人のモチベーションを高めるだけでなく、組織全体に新規事業への挑戦を促す連鎖を生み出すということです。特にPR TIMES STORYのような外部発信の仕組みを活用することで、社外の共感や注目を引き寄せつつ、社内の挑戦文化を強化するという二重の効果が得られるはずです。

◆ひとりからはじめる第1歩

新規事業に挑む社員の努力や成果を表出化し、モチベーションを高めるための第一歩として、「社内広報」を活用してみてはいかがでしょうか?イントラネットや社内ニュースレター、全社メールなどを通じて、新規事業の進捗や挑戦の背景を共有するだけでも、関係者の注目を集め、組織全体で応援しよう、といった空気感を醸成することができます。小さな成功体験や挑戦の意義を発信することは、社員個人のモチベーション向上に直結します。

記事:広報の役割を拡張せよ!イノベーティブな組織を目指すための鍵を握るカルチャー醸成

ただし、広報部門のマンパワーが既に限られている企業も多いはずです。そのような時は、外部の広報サポーターに相談してみるのも一つの手です。例えば、bridgeでもお世話になっている、企業の広報人材育成・組織づくりを伴走する「ハッシン会議」では、広報活動の立ち上げや改善を専門的にサポートしています。代表の井上千絵さんの著書「ひとり広報の教科書」でも、効率的に広報活動を進める方法が紹介されており、こうした外部の力を借りることで、自社の社員のリソースを過度に圧迫することなく、情報発信を継続的かつ安定して実施することが可能です。

広報を通じて成果やストーリーを発信し、新規事業に携わる社員の活動を認知してもらうことで、挑戦を続ける組織をモチベートしていきましょう。

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Vol.0 • はじめに:新規事業を自走する組織とは
Vol.1 • コミットメント: 経営陣の本気度が新規事業の成否を決める
Vol.2 • 方針と目標: 成功への道筋を示す新規事業のフェアウェイとOB
Vol.3 • 仮説検証: 小さく試して、早く学ぶ!失敗を恐れない挑戦術
Vol.4 • プロセスと支援体制: 新規事業を動かすプロセスとサポートの仕組み
Vol.5 • 意思決定: 0→1を実現するための決断と判断基準
Vol.6 • スキル・ナレッジ: 組織全体でスキルと知識をアップデートする方法
Vol.7 • 評価マネジメント: 成功を見逃さない!フィードバックと報酬の最適化
Vol.8 • 社内連携: 部門の壁を超えて、リソースをフル活用するコラボの力
Vol.9 • モチベーション: 新規事業の熱を高める社員のやる気スイッチ
Vol.10 • カルチャー: 挑戦を支える強い組織文化の育て方

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