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Vol.8 組織の自走化:社内連携

こんにちは、bridgeの大長です。本連載「新規事業を自走する組織になるための解体新書」では、企業が新規事業を自走できる組織になるために必要な10の観点に焦点を当て、それぞれのテーマについて具体的な事例をもとに紹介しています。第8弾のテーマは「社内連携」です。新規事業を成功に導くために必要なコミュニケーションの部分について、考えていきたいと思います。

 

まず、新規事業の推進が行き詰まるポイントについて、多くの企業が「実証実験から事業化(実装)への移行フェーズ」で苦労していることをご存じでしょうか?事業アイデアの創出や仮説検証といった初期段階では比較的スムーズに進むことが多いのですが、プロトタイプやユーザーヒアリングを通して顧客ニーズが一定検証できた、社内の合意を得て実際に「事業化」に至るプロセスで推進が滞ってしまうケースが非常に多いです。

事業化への移行フェーズで新規事業が停滞する主な原因の1つが、「社内連携」です。実際、bridgeで独自に実施した調査結果によると、新規事業で成功している企業グループの73%が「組織内外にある専門性やスキルを調達できる」と回答しています。一方で、これができていない企業では、新規事業が行き詰まる原因となっています。

これまで数多くの社内起業家の挑戦をそばで見てきて強く感じるのは、新規事業を成功させるカギは『社内の協力を引き出す力』にあるということです。実際プロジェクトを前に進める社内起業家は、あの手この手を使って組織の応援を引き出す努力をしていました。社内の理解や支援を得られるかどうかは、事業の立ち上げや推進の成否を大きく左右します。今回は、新規事業に欠かせない社内連携とコミュニケーションの重要性について、事例を交えながら考えていきたいと思います。

いつも通り、3つの観点に沿って、従来の組織と新規事業を自走できる組織の違いについて見ていきます。

1. 社内起業家に求められる「協力関係を引き出す力」

新規事業を成功に導くためには、事業を推進する個人の力だけでは不十分です。特に大企業では、事業推進の過程で上司や既存組織から応援や協力を引き出す力が不可欠です。この協力関係を引き出せなければ、いくら事業アイデアや戦略が優れていても、スピード感を持って推進することは難しくなります。

例えば、新規事業を立ち上げた後、既存の営業組織の力を借りて拡販する必要がある場面があります。この際、営業部門に「新規事業が会社全体の成長にどのように貢献するのか」を納得してもらい、協力を得られるかどうかが重要になります。また、事業推進のために他部署から人材リソースを引き出す際も、相手が協力したくなる環境や関係性を築くことが求められますし、時には人事部を巻き込むなどの工夫も必要です。

ここで必要なのが、協力関係を引き出すスキルです。Abeam Consultingの記事でも、「組織を動かす力」が新規事業推進者に求められる重要なスキルだと指摘されています。従来の個人の努力だけに頼るのではなく、既存の組織やリソースを巻き込み、社内外のネットワークを最大限に活用することが、現代の新規事業推進には欠かせません。

2. 社外からも協力関係を得るための「エフェクチュエーション」

新規事業を進める際、従来の組織では「連携先」が社内に限定されがちでした。部門間での協力はもちろん必要ですが、それだけでは現代の複雑な市場環境に対応するのは難しいのが現実です。一方、新規事業を自走する組織では、「社外」も含めた広範囲な連携が求められます。

ここで参考になるのが、「エフェクチュエーション」という考え方です。エフェクチュエーションは、スタートアップの創業者が資源に限りがある中でどのようにして価値を生み出すかを示した概念ですが、これは大企業の新規事業にも応用可能です。神戸大学の吉田准教授と対談させていただいたBizzineの記事でも、「今自分が持っているもの」「現在利用可能なネットワーク」を基にしながら、新たな可能性を模索していくマインドが今後重要になってくるというお話をさせていただきました。エフェクチュエーションでは、「完璧な計画を立ててから進む」のではなく、「今使えるものを最大限活用しながら進む」ことが重要です。大企業の看板や信頼性があれば、組織の外にいるパートナーとの協力も引き出しやすいため、この考え方を積極的に取り入れるべきでしょう。

3. 社内の横連携を支える「バウンダリースパナー」の存在

最後に、新規事業における連携方法について考えてみましょう。従来型の組織では、部門間の壁が高く、それぞれの目標や優先順位が異なるため、横断的な連携を進めるのはとても困難でした。しかし、新規事業を自走する組織では、この壁を乗り越える仕組みが必要です。その鍵となるのが、媒介者(ハブ)を活用した横の連携です。媒介者(ハブ)は、異なる部門や外部組織をつなぎ、共通の目的を達成するための架け橋となる存在です。Globisの記事「大企業のミドルは、イノベーションを起こせないのか?「バウンダリースパナー」の役割」では、媒介者とは「異なる部門や外部組織をつなぎ、共通の目的を達成するための架け橋となる存在」と定義されています。また、この媒介者の役割が「情報の橋渡し」や「利害調整」に留まらず、「信頼の構築」や「新たな価値創造」にも及ぶことが指摘されています。

実際に新規事業を進める現場では、プロジェクト型の横断組織を作り、その中に媒介者を配置することで部門間の連携をスムーズにした事例が多く見られます。bridgeでも、近年このような媒介者の役割を期待されることが多く、その活動を「プロジェクトファシリテーション」と呼んでいます。単なるコンサルタントやアドバイザーとしてではなく、企業内部の部門間調整や、外部パートナーとの連携を支援することで、新規事業推進の加速や成功のカギを握っていると信じています。

◆ひとりからはじめる第1歩

以前の記事「スタートアップ VS 大企業_新規事業の独自スタイルとは」でも触れさせていただいた通り、大企業は本来であれば「内外のリソースを最大限活用できる強み」を持っています。しかし、これが十分に活用されていない現状があります。従来型の組織では、社内リソースを横断的に使う仕組みが整っておらず、部門間の調整や優先順位の違いからスムーズな連携が難しくなっています。また、企業の看板を活かして社外のリソースを引き出す際にも、社内の意思統一が不十分なために、外部との協業が進まないケースが多いのです。

まずは、自社や自組織で活用できるリソースをリストアップしてみる。協力関係を引き出すために、社内他部署や社外に、現在取り組んでいることや困っていることをシェアしてみるところから始めてみるのも良いかもしれません。

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Vol.0 • はじめに:新規事業を自走する組織とは
Vol.1 • コミットメント: 経営陣の本気度が新規事業の成否を決める
Vol.2 • 方針と目標: 成功への道筋を示す新規事業のフェアウェイとOB
Vol.3 • 仮説検証: 小さく試して、早く学ぶ!失敗を恐れない挑戦術
Vol.4 • プロセスと支援体制: 新規事業を動かすプロセスとサポートの仕組み
Vol.5 • 意思決定: 0→1を実現するための決断と判断基準
Vol.6 • スキル・ナレッジ: 組織全体でスキルと知識をアップデートする方法
Vol.7 • 評価マネジメント: 成功を見逃さない!フィードバックと報酬の最適化
Vol.8 • 社内連携: 部門の壁を超えて、リソースをフル活用するコラボの力
Vol.9 • モチベーション: 新規事業の熱を高める社員のやる気スイッチ
Vol.10 • カルチャー: 挑戦を支える強い組織文化の育て方

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