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こんにちは、bridgeの大長です。本連載「新規事業を自走する組織になるための解体新書」では、企業が新規事業を自走できる組織になるために必要な10の観点に焦点を当て、それぞれのテーマについて具体的な事例をもとに紹介しています。
Vol.3〜Vol.6の全4回に渡り、「プロセスの自走化編」として、新規事業の仮説検証活動・プロセスと支援体制・意思決定・スキル・ナレッジの重要性についてお伝えしてきましたが、今回からは「組織の自走化編」と題し、新規事業を生み出し続ける組織をどう作っていくか?について、各テーマに沿って考えていきます。
第7弾のテーマは「評価マネジメント」です。新規事業を成功させるためには、従来の評価方法だけではなく、挑戦を後押しし、学びを深めるための評価基準が不可欠です。ここでは、新規事業を自走させる組織にふさわしい評価方法について、以下の3つの視点から解説していきます。
従来の組織では、既存事業・新規事業に関わらず、すべての事業に対して共通の評価基準を用いることが一般的でした。しかし、事業にはそれぞれ異なる特性や発展段階があり、画一的な評価ではその潜在力を引き出すことが難しい場合があります。事業のフェーズやビジネスモデル特性に応じた柔軟な評価基準を設けることで、組織はより正しいタイミングと基準で事業成長を判断できるようになります。
たとえば、初期段階の事業では売上や利益の数値よりも、市場適応力や実行スピードを重視し、事業がどれだけ市場ニーズに迅速に応えられるかに注目することが重要です。一方、事業が成長期に入った場合には、収益性や拡張性など、より定量的な成果を評価基準にすることで、成長の持続性を測ることができます。また、実現したいビジネスモデルにより、売上や利益などの全体的な評価軸だけでなく、シェアやコンバージョンレート、継続率・解約率など、事業の成功を判断する評価基準は異なってきます。
また、撤退基準をあらかじめ設定しておくことも、事業評価の柔軟性に欠かせません。
AI分析支援サービスを提供するAIdiotの記事では、様々な新規事業の撤退基準が紹介されています。評価基準には「目標の達成」に加え、「市場の変化」「競合状況の変化」などの観点が含まれ、リクルートにおいてはそれらを全体的に考慮した上で、「事業の成長戦略やポートフォリオの優先順位に基づき、事業ごとに独自の判断基準を設けている」と紹介されています。これらの基準を明確にすることで、適切なタイミングでの撤退やリソースの再配置が可能になり、組織は無理にリスクを取り続けることなく、成功確率の高い領域に検証と実装のリソースを集中することができます。
新規事業の成長を促進するには、従来のように売上や労働時間といった短期的な成果のみを評価基準とするのではなく、行動プロセスや潜在的な価値に焦点を当てた評価が重要です。メルカリの事例では、成果と同時に挑戦プロセスや行動の質が評価される仕組みが導入されており、これがメンバーの挑戦意欲を高め、長期的な成長を支えています 。
具体的には、成果に至るまでのプロセスや、新しい試みに対する積極的な姿勢が評価に含まれ、失敗を恐れずに試行錯誤できる文化が醸成されています。こうした未来に向けた潜在的価値を評価することで、メンバーが安心して挑戦し、学びを深められる環境が整います。これにより、メンバーは短期的な目標にとどまらず、自身の成長とともに組織全体の知識基盤を強化することができます。
行動プロセスも含めた評価は、単なる数字では捉えられないメンバーの成長や組織内での知見の蓄積を支える重要な要素です。このように未来志向の評価制度が、新規事業における主体的な行動や挑戦を支える基盤となるのです。
新規事業を生み出し続ける組織では、人事部門の役割が大きく進化しています。従来は「生産性向上を目的とした間接業務」が中心で、人事部門はサポート業務にとどまっていました。しかし、現在では、経営戦略を実現するための「戦略的な人的資本の管理」が求められるようになっています。PHP研究所の記事でも指摘されている通り、人事部門は、事業の成長を支える重要なパートナーとしての役割を果たし始めています 。
この新たな役割には、単なるサポートにとどまらず、経営戦略と連動して人材を配置し、育成することが含まれます。新規事業では、成長が見込まれる人材を戦略的に配置することで、組織全体が自走する基盤が築かれます。さらに、人材のキャリア成長を支援し、メンバーが自律的に学び挑戦できる環境を整えることで、組織の持続的な成長も支えられます。
戦略的人事が実現されることで、組織は市場の変化に迅速に対応し、新たな挑戦に柔軟に取り組めるようになります。経営戦略と人材管理が連携することで、組織全体に挑戦と成長を重視する文化が根付き、新規事業の継続的な創出を後押しするのです。
新規事業の評価を見直すなら、まずは「評価の目的を明確にすること」から始めましょう。自分のチームやプロジェクトで、現状どんな評価基準が使われているのかを洗い出し、「これは本当に挑戦を後押ししているか?」と問い直してみてください。そして、1つだけでも良いので、新しい基準を試してみるのがおすすめです。例えば、「試行回数」や「得られた学び」を評価に加えるだけでも、チームの意識が変わり始めます。まずは小さな一歩を踏み出し、それが組織全体の改善へつながる基盤となります!
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Vol.0 • はじめに:新規事業を自走する組織とは
Vol.1 • コミットメント: 経営陣の本気度が新規事業の成否を決める
Vol.2 • 方針と目標: 成功への道筋を示す新規事業のフェアウェイとOB
Vol.3 • 仮説検証: 小さく試して、早く学ぶ!失敗を恐れない挑戦術
Vol.4 • プロセスと支援体制: 新規事業を動かすプロセスとサポートの仕組み
Vol.5 • 意思決定: 0→1を実現するための決断と判断基準
Vol.6 • スキル・ナレッジ: 組織全体でスキルと知識をアップデートする方法
Vol.7 • 評価マネジメント: 成功を見逃さない!フィードバックと報酬の最適化
Vol.8 • 社内連携: 部門の壁を超えて、リソースをフル活用するコラボの力
Vol.9 • モチベーション: 新規事業の熱を高める社員のやる気スイッチ
Vol.10 • カルチャー: 挑戦を支える強い組織文化の育て方