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Vol.3 プロセスの自走化: 仮説検証活動

こんにちは、bridgeの大長です。本連載「新規事業を自走する組織になるための解体新書」では、企業が新規事業を成功させるために必要な10の観点に焦点を当て、それぞれのテーマについて具体的な事例をもとに紹介しています。

前回はリーダーシップ編として「新規事業の方針と目標」について考察しましたが、今回から4回にわたり、プロセス編として新規事業の具体的なプロセスに焦点を当ててお送りします。
まずは、「仮説検証活動」に注目し、これが新規事業の成功にどれほど重要かを詳しく掘り下げていきます。

新規事業は、既存のビジネスと異なり、市場や顧客の反応を予測することが非常に難しいため、素早く仮説を検証し、現実に即した改善を繰り返す必要があります。
昨今のトレンドでは、事業の成功率を高めるために、仮説検証を社内での検証と調整を繰り返すのではなく、早いタイミングで実際の顧客や市場に対して段階的にサービスを提供しながら検証を行うアプローチが主流となっています。
プロトタイピングやリーンスタートアップといった考え方がその背景にあります。今回の記事では、仮説検証活動における3つの重要な視点を実際の事例を交えながら紹介し、どのようにして新規事業が成功に向かうかを具体的に見ていきます。

◆従来の組織:社内で完結する仮説検討活動

従来の組織では、新規事業の仮説検証活動が社内だけで完結してしまうことが多く、これが事業の成功を妨げる要因となりがちです。
たとえば、社内で何度も議論を重ね、仮想的なシナリオや想定顧客に対して検討を行ったとしても、実際の顧客がどのように感じ、どれだけの価値を感じるかは分かりません。
ニーズ検証(顧客がその商品やサービスを必要と感じるか)は確認できたとしても、投資意向検証(顧客が実際にお金を払いたいか)は十分に行われないケースが多いです。
このため、実際に商品を市場に投入しても、顧客の反応が薄く、期待した売上を達成できないことがよくあります。

◆自走する組織:現実の環境で顧客に直接検証するアプローチ

一方で、新規事業を自走できる組織は、仮説検証活動を現実の市場環境で実際の顧客を対象に行います。社内だけで検討するのではなく、プロトタイプを早期に顧客に提供し、実際に使用してもらい、その反応を基に改良を進めます。
特に、プロトタイプの段階で顧客から料金を徴収することにより、ニーズ検証と投資意向検証を同時に行うケースが増えています。これにより、市場投入前により現実的なフィードバックを得ることができ、リスクを最小限に抑えながら新規事業を成功に導く確率が高まります。

◆事例紹介:仮説検証活動における重要な3つの視点

仮説検証活動を効果的に行うためには、マインドセット、検証方法、そして失敗の捉え方という3つの視点が重要です。
以下では、それぞれの視点について実際の事例を交えながら詳しく紹介します。

1、マインドセット:未完成を受け入れてリリースする勇気

新規事業における仮説検証活動では、未完成の段階でもプロトタイプを市場に出すことが重要です。
完璧を追求しすぎると、製品のリリースが遅れ、タイムリーな市場の反応を得る機会を失います。
実際に、bridgeの過去の対談記事[プロトタイピング活動はなぜ定着しないのか?でも紹介したように、未完成品を市場に投入し、顧客のフィードバックをもとに迅速に改善を行うアプローチが、成功へのカギとなります。未完成の段階でリリースすることにより、顧客のニーズに素早く対応し、無駄なリソースを投入せずに短期間で製品を進化させることができます。

2、検証方法:実際の顧客に対するリアルな検証

従来の組織では、仮説検証が社内に閉じてしまいがちですが、顧客と実際に接触することで真のニーズが見えてきます。
たとえば、資生堂のイノベーションを推進する組織「fibona」では、実際の顧客を対象にした検証活動を体系化しており、プロトタイプを通して実際のフィードバックを取得し、製品やサービスの改良を続けています。
この手法では、顧客が実際に支払いを前提とした評価を行うため、単なるニーズの確認にとどまらず、顧客が支払う意志を持つかどうかまで見極めることができます。
このように、検証の早い段階で市場の実態に基づくデータを得ることで、事業の成否を早期に見極めることが可能となります。

また、株式会社ネクスウェイが開発を進める新プロダクト買掛業務改善クラウドサービス 「トッツゴー」の仮説検証プロセスは、ソフトウェアのSaaSサービスとして、段階的なプロトタイプを活用したアプローチが特徴です。
課題解決のため、まずは粗い仮説を元に顧客からフィードバックを得て、その内容を反映しながら柔軟に提案内容を精緻化していきました。
同社は複数の顧客企業に協力を打診、検証の過程で顧客企業との関係を深めながら、より解像度の高いソリューションを構築。未完成の段階で顧客を巻き込む「コラボレーティブプロトタイピング」によって、効率的に新規事業を推進しています。

3、成果の捉え方:検証の結果ではなくプロセスに価値を見出す

新規事業の仮説検証活動では、成功や失敗といった「結果」だけに焦点を当てるのではなく、検証プロセスそのものにも成果を見出すことが重要です。新規事業はその性質上、不確実性が高く、仮説が最初から正しいとは限りません。従って、単にアイデアの多産多死を繰り返すのではなく、検証の過程で得られる学びや改善を重ねることが、事業の最終的な成功に繋がります。ここでは、結果の正誤ではなく、短期間でどれだけ有効な仮説検証を行い、組織全体でそのプロセスの量と質を高めていけるかが鍵になります。

トヨタ自動車は、「トヨタ生産方式(TPS)」を通じて、このプロセス重視のアプローチを実践しています。たとえば、こちらの事例記事では、検証の結果自体に一喜一憂するのではなく、いかに短期間で効率的かつ質の高い検証活動を行い、そのプロセスから学びを得て次のステップに進めるかに注力しています。トヨタは、検証活動を繰り返すことで、組織全体で共有できる知識やノウハウを蓄積し、仮説検証のプロセス自体を磨き上げていく文化を持っています。

検証活動を通じて、初期仮説の正解・不正解にとらわれるのではなく、プロセスの中でどれだけ多くの改善点や学びを見つけ出し、それを迅速に組織全体で共有・反映できるかが、新規事業において重要な成果となるのです。これにより、事業が最終的に成功する確率が高まり、組織全体の能力も向上します。

◆ひとりからはじめる第1歩

皆さんの組織では、どのように仮説検証活動を促進していますか?
はじめの一歩として、新規事業における仮説検証活動を促進するために、以下の3つの観点を検討してはいかがでしょうか。

1、仮説検証活動の行動原則を定める

まず、「仮説検証活動の行動原則」を定めることで、全員が同じ方向を向いて検証に取り組む基盤を整えます。具体的な行動ルールがあれば、チームは迷わずに迅速に正しい行動を取ることができ、効率的な仮説検証が可能となります。

2、顧客からリアルなフィードバックを得られる環境の整備

次に、「顧客からリアルなフィードバックを得られる環境」を仕組みとして整えましょう。社内での意見交換にとどまらず、クラウドファンディングの活用や顧客候補との共創活動などを検討することで、実際の市場からのリアルなフィードバックを得ることができます。このフィードバックをもとに仮説を更新することで、より強固な価値検討が可能になります。

3、検証量をKPIとして設定する

最後に、「検証の量をKPIとして設定」することで、仮説検証活動そのものを継続的に評価・改善する姿勢を組織に根付かせましょう。検証の回数を増やすことで多くの学びを得ることができ、それが結果的に製品やサービスの質を向上させる大きな要因となります。

次回は、このプロセスをさらに支える支援体制や仕組みについて具体的な実践例を深掘りしますので、ぜひお楽しみにお待ちください。

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Vol.0 • はじめに:新規事業を自走する組織とは
Vol.1 • コミットメント: 経営陣の本気度が新規事業の成否を決める
Vol.2 • 方針と目標: 成功への道筋を示す新規事業のフェアウェイとOB
Vol.3 • 仮説検証: 小さく試して、早く学ぶ!失敗を恐れない挑戦術
Vol.4 • プロセスと支援体制: 新規事業を動かすプロセスとサポートの仕組み
Vol.5 • 意思決定: 0→1を実現するための決断と判断基準
Vol.6 • スキル・ナレッジ: 組織全体でスキルと知識をアップデートする方法
Vol.7 • 評価マネジメント: 成功を見逃さない!フィードバックと報酬の最適化
Vol.8 • 社内連携: 部門の壁を超えて、リソースをフル活用するコラボの力
Vol.9 • モチベーション: 新規事業の熱を高める社員のやる気スイッチ
Vol.10 • カルチャー: 挑戦を支える強い組織文化の育て方

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