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社内起業から独立。 リサーチの民主化を目指す「ユニーリサーチ」の挑戦

大手企業の新規事業開発を中心に支援を続けてきたbridgeが「事業と組織」をテーマに、時にゲストをお招きしながら、bridgeメンバーで自由にディスカッションを繰り広げる「新規事業の自走化」シリーズ。

第9回目の今回は、株式会社プロダクトフォースの浜岡宏樹さんと、bridgeのプロジェクトデザイナー大長伸行が対談します。

浜岡宏樹さん(以下、浜岡):まず自己紹介と、株式会社プロダクトフォースの簡単な紹介をさせていただきます。私は筑波大学を卒業し、在学中はトライアスロンに熱中していました。その後、早くから活躍できる会社に入りたいと思い、2014年に日本最大級の不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)」を運営する株式会社LIFULL(当時は株式会社ネクスト)に新卒で入社しました。LIFULLには約9年間在籍し、最初の4年間は不動産ポータルサイトの法人営業を担当し、東京と大阪で経験を積みました。その後、ご縁をいただいて2年間ほど創業者であり代表の井上さんのカバン持ちをさせていただきました。そのカバン持ち期間に、社内ビジネスコンテスト「SWITCH」に参加しました。幸運にもそこで採択され、何回も失敗してピボットしたんですが、ユニーリサーチという事業を社内でリリースできまして。その後事業をスピンアウトして独立し、現在に至ります。

社内新規事業提案制度「SWITCH」の特徴と応募した経緯

大長 伸行(以下、大長):SWITCHについて詳しく教えてください。

浜岡:SWITCHは公募型かつピッチコンテスト式の事業創出を目的としたビジネスコンテストです。社員は誰でも事業案を提出することができ、事業が採択されると、事業検証に必要なリソースが与えられ、事業化や子会社化のチャンスが与えられます。LIFULLでは社員一人一人の内発的動機づけ、つまり「やりたいという気持ち」を大切にしていて、新卒社員を含む社員から沢山の応募があるイベントでした。

大長:そういうカルチャーだからこそ、ユニーリサーチのように一見本業と繋がりがなさそうに見える事業が生まれるんですね。

浜岡:そうですね。ただ実は最初は、教育事業でエントリーをしていたんです。でも実際には顧客不在のままの事業案だったりして。そこから4回ピボットして、最終的にリサーチに行き着きました。教育事業もLIFULLのコア事業である不動産領域とは関係ありませんでしたが、いつのまにかリサーチという全く新しい分野にたどり着きました。

事業の検証期間は代表の井上さんとも相談して、半分カバン持ち、半分事業開発みたいな感じでハーフコミットをさせていただいていました。LIFULLの制度はすごくしっかりしていて、徐々に事業の進捗に応じて事業開発に割けるリソースが増やせる感じになってるんですよ。

ユニーリサーチの誕生とピボットの経緯

株式会社プロダクトフォース代表取締役 浜岡宏樹さん

大長:このサービスが今の時代に非常にフィットしていると感じます。数年前にこのアイデアを思いついたのがすごいと思うのですが、課題をどのように発見されたのか、またその発想方法について教えていただけますか?

浜岡:アイデアの起点は、私たち自身の課題にありました。4回もピボットをすることになった理由が、顧客解像度の低さに起因していることに気づいたからです。事業検証のやり方も最初は一つのアイデアに固執して、3〜4か月かけて検証していましたが、これでは意味がないなと思って。後半では、数週間でアイデアの検証ができるようにすることと、有料で使ってもらえるかどうかを検証するようになりました。その結果、最後に取り組んだ事業アイデアでは、営業資料を作って200社のクライアントにメールを送信しました。その結果、返信率が約12-3%で、商談化率も高く、最終的に5件の受注がありました。それがユニーリサーチの原形となった事業コンセプトでした。このプロセスを通じて、着想というか、確信を得ることができました。

あとは、コロナの影響が大きくて。当時は会場調査が当たり前だったんですけど、一気にオンラインインタビューが主流になりました。最初は、リサーチ業界としてオンラインインタビューに対する懸念があったりしたようですが、僕は全く問題ないと思っていました。コロナにより全国のユーザーと話すことができるようになったことが、大きなチャンスになりました。

大長:僕は前職でずっとマーケティングリサーチをやっていたんですけど、初めてサービスを見たときに、だいぶ成熟している市場なのにここに切り込むのか、とも思っていたんです。このテーマに行き着いた時に、リサーチ市場についてはどう思っていましたか?

浜岡:正直、リサーチについては無知でした。はじめからリサーチをやりたかったわけではなく、何度もピボットを繰り返している中で、なぜ失敗しているのかを考えた結果、いきついた事業案なので。この顧客解像度の問題は僕だけでなく、多くのスタートアップでも同様に言われていることでした。この問題に気づいた時、「これにはチャンスがあるかもしれない」と思いました。

大長:周りのメンターやアドバイザーから、既存のリサーチ会社との違いをどうやって出すのかという話はありましたか?

浜岡:社外の方と話すと、「絶対に儲からない」と言われました。単価や件数を考えるとマーケットがないし、きつくないですかっていう意見もあって。僕自身も自信がなかったのですが、お客様の反応が良かったのでニーズはあると感じていました。

大長:既存のサービスでは、調査部門から仕事が来て、N=300のアンケートやインタビュー20件、フォーカスグループインタビューのためのリクルーティングなどで300万〜400万円の報酬をもらい、3ヶ月後にレポートを納品するのが通常だと思います。しかし、新規事業の分野では既存のサービスが使われないことが多いように感じます。

株式会社bridge プロジェクトデザイナー  大長 伸行

浜岡:確かに、僕たちのサービスは既存のリサーチ会社とはバッティングしないのが特徴です。ただ、実は当初はスタートアップが使うとまでは全然思っていませんでした。一定の予算がある新規事業部門は使うだろうと思っていましたし、自分も欲しいと感じていました。実際に大企業の新規事業部門や事業支援コンサルタントのbridgeさんのような方々が使ってくれました。しかし、スタートアップのヒアリングをすると、「そんなにお金を払わずに自力で頑張ります」という方が多かったです。

ただこのあたりはリリースしてみていい意味でギャップがありました。スタートアップにも実は潜在的なニーズがあって、時間をお金で買うという考え方や、自力で探すことの限界、バイアスの問題などが存在していました。当初は、大企業の新規事業部門のユーザーインタビューのリクルーティング課題を解決するために始めたのですが、結果的にスタートアップの方々にも利用いただけるサービスになりました。

大長:プロダクト自体はどのように具体化していったのでしょうか?

浜岡:まずは、人力で行っていましたね。トラクションを作るために調査対象者を集めるためにビラ配りまでするなど、泥臭く企業のニーズに応えていました。いただく依頼は、超ニッチな内容だったりするので頑張って探して、紹介して…それを1年弱続けて事業化まで進めることができました。そういったプロセスを経て、2021年の7月に現在のウェブプロダクト型のサービスをリリースすることができました。

ここの人力期間がめちゃくちゃ経験として生きていました。従来のリサーチ会社が行っている手法についても解像度を高めることができたので、それを見直して無駄な工程を省き、効率的なリクルーティングプロセスを構築しました。僕らなりにそのリクルーティング工程を再構築してウェブプロダクト化したのが今のユニーリサーチです。

浜岡:ただ、サービスをウェブプロダクトとしてリリースした時点ではまだ完全に「いける」とは思っていなくて。市場の小ささに対するコンプレックスもあったんですよね。ただ、この市場はむしろ自分が変えていくという心意気でがんばっていて、本当の意味でいけるかなという感覚になったのは独立する手前くらいです。2021年7月にリリースしてから約1年以上経った後のことです。

この間に、お客様からのフィードバックや市場の反応を見て、リサーチの重要性を再認識しました。リサーチのハードルを下げ、誰もが簡単にリサーチを行える環境を整えることが目標です。また、リサーチの民主化を進め、最終的にはリサーチのスタートアップとして市場を変革する力を持つことを目指しています。

大長さん:なるほど。市場を広げていくという点では、どのようなアクションをされていますか?

浜岡: 難しいですよね。いくつかあると思うんですけど、リサーチのハードルを下げることが重要だと考えています。リクルーティング工程だけでなく、他の工程にも介在していこうと考えています。

もう一つは、長くやることかなと思っています。リサーチのスタートアップはあまり出てきていなくて、長く続くサービスもそこまで多くないように思っています。だから、長期的な視点でリサーチの価値を発信し続けることが大事だと思っていて、そこは覚悟をもってやっています。

他のプレイヤーが入ってくることが市場の活性化に繋がると思うので、最終的には市場そのものの認知を広げて、状況に応じて調査会社に発注するのか、セルフリサーチでやっていくのかを考えてもらえるようになるのが理想です。

キャリアとリサーチの広がりについて

大長:社内起業から独立され、今も挑戦を続けている過程を伺いました。その活動におけるエネルギーの源や、ビジネス拡大における考え方を教えてください。

浜岡:もともとは自分自身のキャリアに何か変化をつけたいという思いから始まりました。その後は、チームメンバーを巻き込んでしまったので、頑張るしかないと思って。そしてお客様と接する中で、リサーチ業界全体に対する考え方が変わりました。だんだんと想いが強まっていった感じです。

リサーチ業界に広がりを感じたタイミングがあります。2022年頃に初回開催されたリサーチカンファレンスで約2000人が集まり、UXリサーチという新しいマーケティングリサーチの概念で行われました。アメリカやヨーロッパと比べると日本は約10年遅れているのですが、ここで加速させるのが僕たちの役目だと強く感じました。

マーケティングリサーチ部門だけでなく、全ての人がお客様のことを知るべきです。これを僕たちは「リサーチの民主化」という言葉で表していて。彼女にプレゼントを渡す際に、彼女のことを知らずに当てずっぽうで選ばないのと同じです。リサーチという言葉は少し難しすぎるかもしれませんが、お客様と対話して商品を作ること、営業することは当たり前のことだと思っています。

たとえば商品開発の場面でも、新しい解決方法が見つけられなくなっているじゃないですか。調査部門が出すレポートを見ても、新しいインスピレーションを得られないことが多いです。わかっていることだらけで発見が少ないと思うんですよね。だからこそ、UXリサーチやデプスインタビューでお客様の体験を深く捉え直す。リサーチに限らず、お客様を知ることについてもっと考える人が増えたら、それだけで僕らの事業は成功かなと思います。インタビューのスキルは、最初は誰もが持っていないものなので、そこの最初のハードルを乗り越えさせることに大きな意義があると思っています。

スピンアウトという選択

撮影場所:WeWork 新宿

大長: 元々SWITCHで子会社というルートがある中で、スピンアウトするまでどういう議論があったんですか?

浜岡:この事業を最優先に考えた結果そのような結論にいたりました。LIFULLのコア事業とのシナジーがない中で事業を推進するよりは、自分自身が事業にコミットして、必要に応じて外部資本を活用していけるスタートアップが適しているのではないかと考えました。ただLIFULLは本当に素晴らしい会社で、新規事業を行なう上で多くの裁量や応援をいただいていましたし、最終的には私と共同創業者の意向をLIFULLの経営陣の方々が寛大な心で応援いただいた形です。最終的にはLIFULLよりユニーリサーチ事業を譲渡いただきました。その時に自己資本だけでは賄うことが難しかったため、個人投資家の方々や金融機関様より資金調達をおこなっています。

大長:LIFULLさんの理念を本当に体現した事例ですね。

浜岡:そうですね。とても感謝をしています。

「ユニーリサーチ」累計利用企業数が2,000社を突破した要因

大長:ユニーリサーチは、2024年6月で利用企業数が2,000社を突破しました。急激に成長していますが、その要因や施策についてどのように評価していますか?

浜岡:僕たちのサービスは、国内ではあまり事例がないのですが、PLG(プロダクトレッドグロース)で成長しています。僕たちの会社は正社員が役員を含めて現状3名しかいません。

良いUXを提供することで、お客様のロイヤリティを高めています。その結果としてお客様から他のお客様を紹介していただくことが非常に多いです。こうした口コミでBtoBのビジネスが拡散できていることが、2,000社を達成した成功要因だと思います。そのために、良い体験を提供することに力を入れています。

大長:インタビューリクルーティング市場ではほぼトップクラスですね。セルフリサーチの定性領域では、トップシェアと言えるのではないでしょうか。

浜岡:まだまだではありますが、そうだと思います。

大長:リクルーティングが今までの定性調査のプロセスでは一番手間のかかる部分でしたね。

浜岡:そうですね、その点の課題解決から入れたのは大きかったと思います。その他に細かい要因もありますが、徹底的にプロダクトを利用いただいている方々のために改善するよう動いています。開発チームの主語が常にお客様目線であることが大前提としてあって。もちろん、自分たちの視点で施策を行うこともありますが、大体失敗するのでお客様目線に立ち返ることが重要です。現状は私がお客様との接点を100%持っているので、日々の気づきをロードマップに活かしています。小さな組織だからこそ、一丸となって一つの方向性で進めています。

大長:チーム内での利用状況をリアルタイムに把握できるチーム機能が実装されたとき、神か!と思いましたよ(笑)。

浜岡:チーム機能は確かに事業成長においても大きなインパクトがあった実装でした。これによって事務・経理コストをかけずに、誰もが、かんたんにユーザーインタビューができる環境づくりが可能となりましたね。

大長:確かに。2,000社が導入していると伺いましたが、インタビューする習慣が広がっているんですね。

浜岡:リサーチのインハウス化みたいな流れがあると思っています。従来はマーケティングリサーチ部門がリサーチ会社に発注していましたが、現在は商品開発部や新規事業部門にも自社でリサーチを行いたいというニーズがあります。

大長: リサーチを簡略化し、コストを抑えることでアジャイルに対応できるようになったんですね。

浜岡:その通りです。リサーチの民主化を目指しており、インハウス化の流れが進んでいます。僕たちも総合的なリサーチプラットフォームを作り、リサーチを簡単に行えるようにしたいと考えています。

大長:従来のリサーチ会社では、30名のインタビュー調査に3ヶ月かけて300万円、なんてこともありましたよね。

浜岡: そうですね。それだと遅いですし、失敗できないじゃないですか。僕らのサービスの特徴として、お客様が言ってくださるのは「失敗してもなんとかなる金額と労力、スピード感」です。この手軽さが、一番ユーザーが増えている要因になっていると思います。例えば、10万円以上支払いには社内決裁が必要な場合も、僕らのサービスでは10万円以下でできたりするので稟議不要で実施できたりする。「ちょっとインタビュー技術をつけるために使おうか」というお客様もいたりして、革新的だと思います。

大長:なるほど。調査予算という概念ではなくなっているという話も聞きました。

浜岡:しかし、まだ乗り越えなければならないハードルもあって。誰にでも手放しで「簡単だからリサーチをやってみよう!」って言えるかというとまだそうではないと思っています。今、ユニーリサーチではリクルーティング工程を簡略化していますが、その前段階のリサーチ設計や分析工程にも介在価値があります。また、インタビューだけでなく他の調査手法も増やしていく予定で、総合的なリサーチプラットフォームを目指すというのが今後の展望ですね。

大長: リサーチの民主化は大きなキーワードですね。

浜岡:そうですね。直近ではホームユーステストやPOC(概念実証)もサービス上でできるようになりました。従来でしたら、たとえば新規事業開発で、インタビューを行って簡単なソリューション検証したあとに実際にプロトタイプ検証していこうとなると思うんですけど、「ここでリサーチ会社に発注したら数百万かかるのか…一発勝負だな」ってなりますよね。

ユニーリサーチはそうではありません。POC(概念実証)の参加者も数日で見つけられて、10万円くらいから始められるので、数百万の予算があったら10回できる。そういうところを目指して、来月には定量調査機能もリリース予定です。やはり、開発したいプロダクトの市場の広がりを見極めることが必要なので、定量調査も含めてリサーチに関わる全ての工程をユニーリサーチで行えるようにしたいと思っています。

大長:国内ではプレイヤーが少ないので、狙い目ですね。リサーチの重要性を再認識しました。

ユニーリサーチのこれから

大長:最後に、ユニーリサーチの3年後の目標は何ですか?

浜岡:ユーザー中心のプロダクト作りを当たり前にすることを直近のミッションとしています。ただ、ビジョンとしては、プロダクトの力で社会を変えることを掲げています。

最終的にやりたいことは、正直リサーチではないんです。どちらかというと、プロダクト作りの全工程をテクノロジーの力で簡単にすることが目的です。挑戦する方々を後押しして、良いプロダクトが生み出されることで社会をより良くしていくという考え方を持っています。まずはプロダクトづくりの一丁目一番地として、リサーチの民主化を進めようというところです。

なので、直近3年くらいで総合的なリサーチプラットフォームを作りたいと考えています。簡単にリサーチを行い、お客様の声を聞きながら精度の高い意思決定をするんだったら「ユニーリサーチを使おう」という世界観を作っていきたいです。

 

【ユニーリサーチについて】

ユニーリサーチは「最短当日・従来調査コストの10分の1以下」でユーザーインタビューによるユーザー調査を可能にする国内最大級のインタビュープラットフォームです。企業は1名のインタビューを5,000円~の低価格で、最短当日というスピードで実施できます。2024年6月時点で利用企業数2,000社、累計インタビュー数39,000件を突破。

国内最大級のユーザーインタビュープラットフォーム『ユニーリサーチ』
https://unii-research.com/business/

 

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