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第三回:bridgeはどのように新規事業を支援するのか
組織内の新規事業開発について、2回にわたり人と組織の両面から説明してきました。
今回は、新規事業を促進するために重要な「プロジェクトデザイン」という概念と、それを促進・支援する「プロジェクトデザイナー」という役割について解説します。
第一回:なぜ、新規事業が成功していないのか?
https://www.bridgedesigners.com/topics/4456/
第二回:事業を創る組織のつくり方
https://www.bridgedesigners.com/topics/4491/
「プロジェクト」と聞けば、「マネージメント」をイメージするかもしれません。
確かに、マネージメントは、ゴールや手法がある程度はっきりわかっている、既存事業の拡大や継続フェーズにおける基本業務です。
人材や予算、時間などのリソースを適切に把握し、計画通りに進捗を管理することが求められます。
しかし、社会のルールが大きく変わった今、既存の管理方法では対応しきれない課題が出てきました。
縦割りで硬直化した組織では、急速な変化についていけない。過去の事例は必ずしも参考にならない。
目先の対応にばかり追われていれば、新しいビジネスチャンスを逃してしまう。
つまり、同じプロジェクトという単語でも、その意味をシフトせざるを得ないのです。
同様に、「デザイン」も、真の意味を再確認する必要があります。
2018年、経済産業省・特許庁から「デザイン経営宣⾔」が出されるなど、業種や規模に関わらず、課題の発見と解決にデザインが不可欠なことが、ようやく認識されるようになりました。
これらを合わせた「プロジェクトデザイン」とは、組織内のイノベーションを促進し、具体的かつ着実に実現していくための仕組み作りのことです。また、それを担う人材が「プロジェクトデザイナー」です。
ビジネス環境の大きく急速な変化は、業界や国境を越えて、同時多発的に起こっています。
不確定要素だらけの新規事業は、進捗管理や計画といった従来の考え方の延長ではカバーしきれず、問題設定そのものから取り組まなければなりません。
これが、プロジェクトデザインが必要とされる理由です。
プロジェクトは、マネージメントだけではなく、デザインすることが必要な時代に
プロジェクトデザインという新しい概念は、MBAやロジカルシンキングなどと同様に、海外が発祥の手法や考え方です。しかし、欧米流を真似する必要はありません。というのも、実は、古来の日本的な文化と親和性が高い面があるからです。
日本の村社会的なコミュニティー文化は、意志決定の遅さや不透明性といったマイナス面も確かに指摘されます。
しかし同時に、全員での調和を目指す慣習は日本人の感性に合っていて、プラス要素としても作用してきました。
それは、全世界の企業のうち、創業100年以上の40%以上、創業200年以上だと実に65%が日本企業で、どちらも第1位だという事実が証明しています(出典:日経BPコンサルティング・周年事業ラボ)。
つまり、旧い体質に思える日本型企業でも、プロジェクトデザイン的な思想が根付いている組織はあります。
息の長い企業はどこも、自社の存在価値を日本的な手法で守りながらも、革新的な挑戦を続け、常に時代に適応してきたはずです。
そこには必ず、肩書きこそ違え、プロジェクトデザイナーと同じ重要な役割を果たしてきたキーパーソンがいます。
新規事業をどうリードしていいかわからない、メンバー間の温度差がある、既存部門の利害調整が大変…。
プロジェクトがスムーズに進まない理由はさまざまですが、多くの場合、リーダーは居ても、プロジェクトデザイナーの不在が大きな阻害要因です。
今までの仕事は、チームが同じようなメンバーで構成されていたため、いちいち言語化・文章化しなくても、十分にコミュニケートできて当たり前でした。
同じ空間の共有が前提だったこともあり、阿吽の呼吸で細部まで伝わる、高度なハイコンテキスト(文脈重視)文化でした。
これが、人材の流動化や働き方の多様化によって、ローコンテキスト(内容重視)にならざるを得ないのが現状です。
共通した過去の経験や慣習は前提にならず、リモートでは細かいニュアンスを共有しづらくなっています。
プロジェクトデザイナーは、チームや人々をつなぐハブとしての機能を果たす立場です。
コンテキストを全否定するのではなく、かといって過度な依存もせず、縦割りの正規ルートでは時間が掛かっていたプロセスをショートカットしたり、組織や部署の垣根を越えて意志決定をスピードアップさせます。
新規事業開発においても、社内外の垣根がないオープンイノベーションをリードします。
また、プロジェクトデザイナーは、「外と内」両方の視点を持ち合わせるストーリーテラーです。
彼らが、コンサルタントやスーパーバイザーと大きく違う点は、自身が現場にコミットすることです。
組織の中にプロジェクトデザイナーを巻き込んだり、自社の中でイノベーションマインドを持つ人材を育てることは、新規事業の成功に不可欠です。
次世代のリーダーとして、プロジェクトデザイナーに求められるのは、組織やビジネス、人を深く理解するさまざまなスキルです。ここでは3つに絞って説明します。
ビジネスでは「何を」「どのように」進めるかはよく問われます。
その一方で「なぜ」は、通常業務では、改めて考えることがありません。
「なぜ」は、ビジョンや夢、ミッションとも言い換えられますが、前例のないビジネスにチャレンジするプロジェクトでは、メンバー全員が共感・共鳴するビジョンの設定と確認は非常に重要です。
何のために、新規事業を進めるのか?その中で、自分はどうありたいのか?社会に及ぼすポジティブな影響とは何なのか?企業にとっての利益に留まらず、社会課題の解決というより大きな目標を達成するには、さまざまなステークホルダーにビジョンを明確に示すことが大切です。
新しい挑戦の第一歩は、ビジョンがいろいろな立場の人に共鳴し、広がっていくことです。
チーム内だけでなく幅広い人たちに、自分たちが目指す姿が正しく理解されることで、メンバー個人のポテンシャルがさらに引き出されます。
迷った時も、必ずこの原則に立ち返って、ブレていないか見極めることが可能です。プロジェクトを「ビジョン駆動」で進めることで、メンバーが価値観を共有し、優先順位を判断して、具体的な行動へと移すことができます。
プロジェクト組織における理念体系の文脈
新規ビジネスには、さまざまな人材が集まります。
何が正解なのかがわからないこともあり、各自の「正しさ」同士が衝突してしまい、不毛な二項対立に陥ることもあります。ビジョンを実現するには何をすべきか?自分はどう行動するか?行動原則を決める必要があります。
北米で靴の販売チェーンを成功させ、後にAmazonに買収されたZappos社の場合は、チームが目指す指針を次のような言葉で示していました。
スタートアップからGAFAのような超巨大組織まで、プロジェクトのコアバリューを示すことで、チームメンバーが成功へ向かって結束します。
出典:『ザッポス伝説』トニー・シェイ 著
『優秀な羊飼いは、羊の習性をよく理解している』という言葉があります。
これは『人を飼い慣らす』という短絡的な比喩ではなく、『自分自身を含む個々の特性を理解しながら、全体を目指す方向へリードしていく』ことを意味しています。
プロジェクトデザイナーは、ファシリテーションに有効な、以下の4つのコアスキルを持っています。
これらのスキルを活かしながら、メンバーの特性を見極めて人材を育て、イノベーションを生みやすい企業文化を醸成していきます。
組織が長く抱えてきた古い慣習や、個人の保守的なマインドセットを適切に取り除き、互いに協力しながら新しい価値や魅力を再構築していく。
このアプローチは、まさにアーキテクト的な活動です。
世界のビジネス環境が大きく変化して一年。
きっかけはどうあれ、ビジネスが変化する速度が年々速くなり、過去の延長では解決できない課題が増えていることは事実です。
VUCAと称される不確実・不透明な時代には、一般企業にも、柔軟なイノベーションマインドが求められています。
自社の価値を再評価し、新しい事業にチャレンジするタイミングが早まったと、より広い視点に立って捉えてみましょう。
これからのプロジェクトには、組織の内外を超えたコラボレーションが有効です。
そこで必要とされるのが、プロジェクトデザインという取り組みであり、プロジェクトデザイナーという役割です。
プロジェクトデザイナーとして活動するbridgeの知見を、御社の新規事業プロジェクトにお役立てください。
[PROFILE]
大長 伸行
2009年よりデザインファームのコンサルタントとしてデザイン思考を活用した商品・サービス開発、イノベーション人材育成プロジェクトをリード。2017年1月株式会社bridgeを創業。多様な業種、組織の200を超えるイノベーションプロジェクトを横断し得た数々の失敗経験を形式知化し、企業内新規事業の創出とイノベーション組織づくりを支援する。特技は、後先考えずに安請け合いすること。
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