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最近、『自社で進めているイノベーションプロジェクトをうまく評価できない』という相談を、立て続けに受ける機会がありました。その要因について考えてみます。
寄せられた相談のすべてに共通していたのは、まず、『自社にとってのイノベーションとは何か?』という、共有化された定義がなかったこと。次に、そのプロジェクトがどのような成果を目指すのか、『プロジェクトの野心のレベル』が設定されていないことが、根本的な要因となっていました。
これら2つが社内やチーム内で十分に話し合われていなかったため、共通認識として浸透していなかったのです。イノベーションによって、どこを目指すのか、どのようなプロセスを採用するのか、成功の基準は何か、チームで共通認識が持てなければ、議論の空転が続くばかりです。
イノベーションの定義については、今、説明したように、会社によって定義や捉え方が異なります。しかし、プロジェクトを実現させ、成功へと導くには、「野心」とも呼べる、強く熱い情熱が不可欠なことは変わりません。今日は、「野心の3つのレベル」について紹介します。
企業は、自社の製品の新鮮さと競争力を維持するために、日常的に地道な研究開発と改良を続けています。インタビューや観察といった方法で現状の問題を発見し、それを改善していくプロセスです。
このアプローチはまず間違いなく、顧客に新しい価値と優位性を提供できます。一方で、それが業界で認知されると競合相手が素早く模倣、対応するので、その優位は通常長くは続きません。このアプローチは、自社がすでにカテゴリーリーダーである場合は、特に有効です。
従来、自社が提供していた製品やサービス価値提供の範囲を超えて、顧客のためにより包括的なソリューションの検討を必要とする。例えば、オートバイメーカーであるハーレーダビッドソンは、その熱烈な顧客層に長く支持されていて、「ガレージ・パーティー」と呼ばれる定期的な集まりや、世界各地で開かれるイベントを通じて、ファンである顧客たちとのつながりを維持するために、日々努力を重ねています。新型コロナウイルスによって人々が集まる機会も制限されている今も、新しいアプローチが模索されているに違いありません。
日本では、キャンプ用品メーカーのスノーピークが、例えば、グランピングと呼ばれるワンランク上のキャンプライフを提案するサービスや商品、イベントを開催しています。三密を避けたレジャーや、防災にも通じるノウハウなど、既存のキャンプ業界の枠組みを超えて、顧客の新しいロイヤリティ獲得に成功しています。
最も革新的ですが、タフなレベルでもあります。これまで業界内で競争していた属性を基準にすることを止め、それ以外の属性で、同時多発的にイノベーションを起こして、産業構造を根底から変えてしまうことを目指します。これには深い洞察と、プロジェクトオーナーの強烈な野心が欠かせません。
例えば、航空機エンジンメーカーのGEアビエーションは、メンテナンスや資材管理、資産管理を統合したワンストップソリューションと、エンジンの稼働時間による課金方法を導入しました。それにより、エンジン製造業からシフトし、最適な運航を支援するコンサルティング業として、航空機産業に革命を起こしています。
どのレベルの野心も、リスクもあればリターンもあり、正解も不正解もありません。ただ、これから始める自社の取り組みは、どの野心に沿うものか、予定しておくだけでも、メンバーの活動の意識が定まり、地に足のついた議論を進めることができます。プロジェクトの立ち上げ時には、ぜひこれらの「野心」ついて、じっくりと話し合ってみましょう。