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スマート化、シェアリングエコノミー、IoTやAI、コモディティ化など、あらゆる技術革新と、それによって生じる現象が顧客の行動に影響をもたらし、ビジネスにおける競争のルールを大きく変えています。競争のルールが変わったのは、顧客の期待やニーズが変化しているからです。だからこそ、顧客の購買導線であるカスタマージャニーを考えることで「顧客の視点で自社の競争力を高める」道筋も見えてきます。
それでは、どうすれば自社の競争力を引き出し、市場で競争優位に立てる顧客経験(カスタマーエクスペリエンス)を作れるのでしょうか?エクスペリエンスデザインは、どのような視点で設計すべきでしょうか?
そこで今回は、競争のルールを変えていくための4つの型についてご紹介します。縦軸に、短期、中長期という時間軸を引いて、横軸に既存の体験、新しい体験という軸を置きます。これらの軸で、カスタマージャニーの目指すべき方向性を4つの象限で捉えることができます(図1)。
左下の象限にあたる「強化型」は、短期に結果を出すために有効です。うまくいっている顧客接点や体験を見つけて、そこに投資したり、強化するという方法です。
左上の「最適化型」は、一通りのジャニーをマッピングした上で、うまくいっている部分とそうでない部分のバランスを取りながら、ベストなカタチに整えていくやり方です。少し時間はかかりますが、これまでのプロセスを大きく変えることなく、改善していくという方法です。
右下の「追加・削除型」は、新しい体験を追加したり、既存の体験を削除することで、全く新しいジャニーに創り変えるアプローチです(図2)。
例えば、食料品や洗剤、ペットフードなど、自分が日頃愛用しているブランド専用の注文デバイスであるAmazon Dash Button の出現によって、ユーザーは定番の消耗品を、残量がなくなったその瞬間に、パソコンやスマホを使わずに追加注文できるようになりました。2019年春で、このハードウェア自体の販売は終了しましたが、そこで得られた顧客体験は、スマートスピーカーであるAmazon Echoでの音声注文に引き継がれています。
また、ライドシェアのUberは、フィンテックの進歩によって、タクシーの中での面倒な「支払い」というステップを削除しました。社会人や就活生を対象としたソーシャル経済メディアNewsPicksは、スマホのニュースアプリの枠組みを超えて、オフラインの勉強会、イベントに体験を拡張し、熱心なファンを獲得することに成功しています。
最後に右上の「再構築型」は、カスタマージャニーを根本から再設計する方針です。この象限では、既存の延長線上でジャニーを考えるのではなく、強制発想的にアイデアを構想するアプローチが有効です。
例えば、各競合他社が差別化のためのさまざまな努力をしている中で、一歩ひいて、業界のパターンを俯瞰して捉え直すと、各社同じポイントで競争しているといったことがよくあります(図3)。そのような場合は、各社が努力している領域では敢えて競争を止め、各社が注目していない領域で差別化するといった逆張りの発想で、まったく違う体験を考えてみるのも有効です。
例えば、1000円カットの「QBハウス」、立ち食いフレンチで有名な「俺のフレンチ」などは、これまで業界が努力していた領域での競争を止めることで、まったく新しい価値づくりに成功している企業の例です。
シンプルな4つのマトリックスですが、この視点でサービスを捉え直すことで、プロジェクトのスコープやゴールについての意識を合わせることができます。また、途中で数社の事例を示したように、この型に沿って、既存のさまざまなサービスを分析してみるという方法も有効です。ぜひ、御社ならではの顧客体験をデザインしてみてください。