CASE STUDY
課題
bridgeがしたこと
成果
1952年、マックス株式会社は、国産初の小型ホッチキスの開発に成功し、以来70年以上の間に5億台を超えるホッチキスを生産・販売してきました。「世界中の暮らしや仕事をもっと楽に、楽しくする」とビジョンを掲げる同社では、文具・オフィス機器、建築・建設工具、住宅設備機器、農業・食品包装など、独創技術を活用した次世代をリードする新製品を作り続けています。
2021年には事業を通じた社会課題解決をより前進させるため、社内ビジネスコンテスト「第1回新規事業創出プロ」を実施。そこで誕生したのは、若年層大工の増加に貢献する、工具のサブスクリプション・レンタルサービス『レンツール』です。同サービスは現在、マックスの子会社として新設された株式会社レンツールで展開されています。
新規事業立ち上げの取り組みから今後の展望、bridgeの支援内容に関する率直な感想なども交えて、マックス株式会社の石井さん、株式会社レンツールの本田さん、鈴木さんにお話を伺いました。
─Q 最初に、新規事業創出に向けた取り組みの背景を教えてください。
石井周一さん(以下、石井):5年、10年先の事業の柱を中長期視点で自由に発想してほしいとの会社方針から、これまでの製品開発を白紙に戻し、若手中心に新規事業の創出に新しい発想で取り組むことになりました。
そこでスタートしたのが、社内ビジネスコンテスト「新規事業創出プロ」です。第1回開催では、「若手大工の離職率が高い」「新たな大工のなり手が不足している」などの課題を解決に向けた、工具のサブスクリプション・レンタルサービス『レンツール』が誕生しました。2023年9月には、多摩エリア限定でサービス提供を始めています。
─Q 『レンツール』のアイデアはどのようにして生まれたのでしょうか?
本田哲司さん(以下、本田):「第1回新規事業創出プロ」には、事務局が選んだ20名のメンバーが参加していて、4名ずつのグループに分かれたんですね。私と鈴木はグループが同じで、建設・建築工具事業に携わっていたことから大工さんの困りごとにも精通していました。その中で大工人口の急減に着目したわけです。
国勢調査によると2020年の大工人口は29万7900人と、2015年の35万3980人から15.8%減少、2000年の64万6797人から半減しています。また、大工人口の約40%が65歳以上であるなど高齢化が進んでおり、一方の30歳未満はわずか7.2%という現状。このままでは、大工という職業もしくは住宅建築というもの自体が崩壊する可能性すらあります。
さらに状況を詳しく調べると、若手の大工さんが3年以内に約5割が離職するというデータもあり、背景には「先行投資する工具代が高い」という悩みがあるとわかりました。一般的な相場として、若手が必要な工具を揃えるには50万円ほど必要ということがわかり、この課題を解決するため、月額1000円~自分の工具が持てるサービス『レンツール』を考案したというわけです。
─Q 工具のレンタルサービスという着想は、どの段階で得られたのでしょうか?
本田:1年半の仮説検証期間があり、そこで試行錯誤の末、今のビジネスモデルにようやく辿り着きました。当初は「手ぶらで大工」というサービスを考えていたんですね。大工さんの悩みをヒアリングするうちに、現場に工具を運ぶのが大変だという声があったからです。現場によっては自動車を都度借りる必要がありますし、道路が渋滞していれば時間のロスにも繋がります。そこでいくつかの方案を検討し、課題解決を図ろうと試みましたが、お客様の異なる状況・ニーズに対応できず、これが思うようにうまくいきませんでした。そこで再度、お客様が本当に求めているものが何なのか仮説検証を繰り返し、必要なもの・不必要なものを見極めることに。改善を続けた結果として、『レンツール』は誕生しました。
─Q 『レンツール』の事業化にあたり、特に大変だったことは何ですか?
鈴木伸吾さん(以下、鈴木):『レンツール』を事業化するために、まず多摩エリア限定でサービスを開始しました。その際、有料サービス利用をしてくださるユーザーの数が思うように伸びなかったのは1つの壁でした。我々としては、既存部門のリソースを借りることなくチーム内で事業立ち上げを実現させたかったので非常に苦心しました。最終的には、壁を突破するためのカギが目の前にあるのだから手を伸ばそうと決断し、営業部門の承認をもらうことでステージを一歩前に進めました。
ただ、いざ承認をもらうにも大変なことが多く、課題も山積みの状態です。我々のチームにもマックスにも双方にメリットがある形を模索しながら、どうにか5ヶ月ほどかけて承認を得ることに成功しました。
石井:最後は決裁権を持つ役員一人ひとりのスケジュールを押さえ、個別に提案することを繰り返したんですよね。ここについては、思いのほかスムーズに承認を得ることができていたのではと感じていました。というのも、社内で3ヶ月に一度開かれる事業戦略会議の中で、経営陣に何度も価値検証の結果などを報告していたんですよね。地道な積み重ねがあったからこその結果だったのかなと感じています。
─Q 今回、株式会社レンツールを子会社として新たに設立しましたが、どのような背景があったのでしょうか?
本田:我々は事業の立ち上げの際、「『レンツール』の利用が普及し、若手大工が増えることにより住宅建築市場の活性化に貢献し、よりよい街づくりが加速する社会の実現を目指す」とミッションを定めました。そのためには、大工さんが必要とするおよそ30品目の工具をレンタル品として揃える必要があるのですが、マックスの製品だけでは十分な品揃えとは言えない状況でした。つまり、他社の製品を扱う必要があったんです。そう考えた時に、マックスの社内でこの事業を推進することには難しさがありました。
また、サブスク型のビジネスモデルは、会計基準がマックスが採用しているものとは異なる側面があります。こうした事情もあって会社を別々にすることにしました。
石井:もう一点加えると、「役職のない社員であっても社長になれる」というストーリーを作りたかった背景もあります。当社は、石橋を叩いて渡るような堅実な性格で多くのお客様に支持していただいていますが、その反面、新しいことに一歩を踏み出すのにも時間がかかる特徴があります。今回の『レンツール』が1つの事例となり、アイデアを出して一生懸命に頑張れば、早期に事業を始めることができ、自分の意思でやりたいことをやれるといった、そんな雰囲気を作りたい思いがありました。
鈴木:保守的な側面は確かにありますね。ゼロから新規事業を立ち上げることは「大変」という以上に「面白い!」という認識に変えられるよう、これから社内に向けてどんどん発信していきたいなと思っています。
─Q 価値検証・事業検証などを含む、包括的な検証活動とグロース支援にbridgeは関わらせていただきました。ぜひ、弊社に依頼をした背景を教えてください。
本田:新規事業の立ち上げに向けて、サポートしてくれるコンサル会社を複数社で検討していたのですが、bridgeさんがもっとも弊社の価値観とも合い、伴走もしてくれるような感覚がありました。これは実際に活動が始まってからも感じていたことで、新規事業開発のスペシャリストという側面は当然ありつつも、我々が大切にしていることを尊重してくれるような、そんな居心地の良さがあったのだと思います。
石井:bridgeさんはビジネスライクな感じがないんですよね。我々の考えを引き出すような関わり方をしてくれますし、厳しい言葉が必要な時には遠慮なく伝えてくれる。そういった姿勢を見て、本当に「信頼できる」と感じられたのだと思います。
鈴木:有料サービスを利用してくださるユーザーが実証実験で十分に集まらず、マックスのリソースを借りたという話をしましたが、それを促してくれたのもbridgeさんだったんですよね。社会課題の解決というミッションや事業創出の目的を、冷静な視点をもって促してくれる。そういったスペシャリストとしての一面も改めて魅力だなと感じています。
あの出来事がなければ『レンツール』は立ち上がっていなかったと思うので、まさにターニングポイントで適切な支援をしてくださったのだと感謝しています。
─Q 最後になりますが、レンツールの今後の展望について教えてください。
本田:まずは目下の目標として、3年後に3億円の売上達成を掲げています。短期・中期で目指すゴールとして必死に向き合っていきたいです。
定性的なところですと、やはり若手の大工さんを増やすための活動に力を入れていきます。手段として視野に入れているのは、建設キャリアアップシステムと『レンツール』の連動です。建設キャリアアップシステムは、ビル建築などの領域ですと8割以上の技能者が加入していますが、大工さんの領域ではほぼ認知されていません。この普及率が増すことによって、技能者の能力が自己申告から客観的な指標によって示され適切に評価されます。これにより職人さんの地位が向上すれば、それに伴って社会的な信用や賃金の上昇に貢献できると考えています
『レンツール』の事業活動を通じて社会課題を解決する一方、より広い視点で若手大工が増える未来を描き、よりよい街づくりを実現すべく取り組んでいきたいです。
取材協力:株式会社ソレナ