CASE STUDY
課題
bridgeがしたこと
成果
ミズノは、スポーツの定義を競技シーンだけでなく、人々の日常的な身体活動にまで拡大するために、敢えてチャレンジの道を歩みました。2022年には、スポーツ関連用品の開発技術やノウハウを活用して、スポーツの力で社会課題を解決するという新たな価値創出のために、新しい研究開発拠点の設立を計画しています。
bridgeでは、イノベーションを生むための組織改革や、仕組み、人材、風土づくりなどのコンサルティングを通じて、同社を統合的にサポートしています。単なるフレームワークの型どおりの導入ではなく、社員一人ひとりが高い意識を持って自主的に参加するプロセスを重視。アイデアを具体的な形にまで落とし込み、実現へと導く、息の長いレースを共に走り続けています。
このインタビューでは、同社の新研究開発拠点プロジェクトリーダー グローバル研究開発部 次長兼開発統括室である佐藤室長に、これまでの活動の成果や手応え、今後の展望について伺いました。
ミズノ株式会社
グローバル研究開発部 次長
(兼)開発統括室 室長
2018年の6月、部門長が集まる会議での提案から始まりました。その当時、私はシューズの開発課の課長として、やりたいことや新しいことにどんどん挑戦させてもらっていました。ただ、あと一つやり残していることがありました。それは、開発環境をもっと良くすることでした。
現在の開発環境は15年以上前に作られた施設です。この開発環境があったからこそ、私たちは画期的な機能を生み出すことができ、それが一般の皆さんの話題になり、結果として多くのヒット商品へとつながりました。しかし、私たちが15年前と大きく変わらない環境で開発をしている中、競合他社は過去10年以内に、開発環境に大きな投資をしてきています。私たちミズノも、自分たちの強みをもっと活かすことができれば、さらに大きな価値をつくれる、そういう挑戦をしたい、という強い想いが常にありました。そのためには、未来に向けた環境づくりが不可欠だったんです。当時の部門長に提案して、新しいことに挑戦し、より高い次元の成果を出すために、ぜひとも開発環境への投資をしてほしいと、依頼したのが最初のきっかけです。
よく覚えています。やっぱりあれが原点ですね。各部門のリーダーが集まるコアメンバーが一堂に会して、ぶっちゃけトークというか、現状の悪いところも包み隠さず共有しました。未来にありたい自社や自分の姿と、絶対にこうはなりたくないという姿について話し合ったのは、とても良かったなと思います。
そのとき、今後、取り組んでいくべきことを、16個の検討課題という形で整理しました。それは、施設空間や設備といった、いわゆる施設設計の範疇を超える多岐に渡る課題でした。
開発環境には、「箱(ハード)」と「仕組み(ソフト)」という2つの側面があって、箱はあくまで両輪の一つです。もう一つの仕組みとは、組織体制や働き方といったイノベーションが生まれるシステムであり、その両輪が必要だと考えていました。特に仕組みの方は、つかみどころがないぐらい大きな話なので、やりたいこと、やっていくことを整理できたのはとても良かったです。
はい。このような恵まれた機会に、ぜひとも全社員が自分事として参画できるようにしたいという思いがあったので、全社アンケートを取りました。
アンケートの項目は、新しい研究開発拠点に望むことだけでなく、スポーツの価値、ミズノが社会に貢献できること、ミズノの強みや弱みなどを、全て自由記述式で尋ねました。
過去の事例からすると、自由記述形式の全社アンケートは100人も回答があればいい方だったので、当初、プロジェクトメンバーの反応も今ひとつでした。『選択式の方が多くの回答を集められるのではないか』という議論もありましたが、熱い想いを持った人の意見を大切にしたいので、『回答数が少なくてもいいから、自由記述式でアンケートを取ろう』と説得して実施しました。
それが、いざアンケートを回収してみて本当に驚きました。回答は何と700件以上。海外のグループ社員も合わせると800件を上回りました。また、回答時間を計測したところ、一人当たり約30分。30分も掛けて書かれた回答が、800件以上集まったんです。回答者も、研究開発系の部門だけではなく、営業部門や事業部、間接部門、さらには子会社からも回答が寄せられ、年代も20代から60代まで幅広く回答がありました。
そこに書いてある内容も、私たちだけでは受け止めきれないくらい、熱い想いが詰まっていました。『部門間の連携が悪いよね』とか、『チャレンジしやすい雰囲気が足りていないのでは』など、仕組みや風土に関する話が、もう出てくる出てくる(笑)。仕組みを変える必要があることは分かっていましたが、より具体的になったと同時に、これだけの熱い想い、意思を持ったメンバーが社内にたくさんいることがはっきりとわかりました。そういった人たちに、仲間として参画してほしいという思いが、どんどん強くなっていきました。
まず、うまくいかないプロジェクトの典型のような状態にだけは、絶対にしたくないと考えていました。やらされ感のある形式的な会議や、やったはいいけど何が決まったのかもよく分からず、結局、何も進まない仕事には、したくありませんでした。
あとは、全社アンケートを通じて、『変えるなら今しかない』という想いを持っているメンバーが実際にいることが分かったので、ぜひともそういう意志ある仲間と進めたいという、本当に純粋な思いから有志を募りました。
ただ、有志のプロジェクトは社内ではあまり前例がなかったので、簡単ではないという忠告や、貴重なアドバイスを何人もの方からもらいながら、手探り状態で進めました。本来の業務とは別のプラスアルファの仕事になり、労務管理や仕事の評価といった人事面にも関係するので、人事部との連携も必要でした。
順調に軌道に乗れば、将来はプロジェクトベースの仕事が増えていくと予想されました。そのため、このプロジェクトが働き方のモデルケースとして評価できるように、実験的な意味合いも込め、しっかり活動データも取得・分析していました。
そうですね。本当にやって良かったです。有志メンバーによるプロジェクトの成果は、経営陣に対し報告したときに返ってきた、役員のコメントが物語っていると思います。『本当に、ここまで真剣に考えてくれてありがとう』、『これを、何も変わらないプロジェクトに終わらせずに、絶対に前に進めような』という言葉でした。役員が後押ししてくれたり、支援者に回ってくれたのは非常に大きいことだと思いますし、そう感じてもらえるような提案につなげられたと実感しています。
さらに、働き方の面でも、多くの気づきがありました。今回は自己申告での労務管理だったんですが、38人の有志がプロジェクトの活動に費やした合計時間は704時間で、一人当たりに換算すると18.5時間、つまり2〜3日分に相当しました。今回の短期プロジェクトの実働33日のうち、2〜3日分の時間を捻出したということになります。時間や作業について一切指示をしない、有志のプロジェクトだったので、多忙なメンバーが自分の意志で捻出した時間です。この数字は、やらされ感のあるプロジェクトでは絶対にないですよね。
また、プロジェクト期間がちょうど新型コロナウイルスの流行と重なり、リアルに集まれないのは障壁だと思っていたのですが、長所もたくさんありました。
一つは、距離の壁が消えたこと。本社の大阪以外に、東京から参加するメンバーもいたので、距離の障壁があるのかなと思っていました。ですが、みんな自宅でのテレワークで、インターネット経由でやり取りをしている時点で、もはや距離の壁は全く関係ないですよね。社内のグループウェアであるMicrosoft Teams内での活発な議論は、距離の壁を楽々と超えていますし、自分が所属しているチームに限らず、6つのワーキンググループ同士でどんどん覗き見して入っていけるのも、リアルな会議にはない良さだと感じました。
あとは、Microsoft Teamsを使うことで議論のプロセスが言語化され、可視化できるのも大きなメリットです。勝手に誰かが決めているのではなく、自分たちの力で動かしている実感が持てるところも、とてもいいなと思います。
有志で集まって提案につなげたこの流れを絶対に止めたくなかったので、正式に次の局面に前進することができて、本当に嬉しく思っています。
今回のワーキンググループのメンバーには、心の通った仲間のようなつながりがあるんです。このメンバーと一緒に自分たちが伝道師となり、国内にとどまらず、グローバルでもさらに活動の輪を広げていきたいですね。今はまだ参画していない、熱い想いと強い意志を持っているメンバーとも、いつか一緒に活動していけたら嬉しいです。
当社の経営理念は、『スポーツの力で世界中の人々を幸せにすることへの貢献』。私たちが最終的に目指すゴールは、単に施設を作ることではなく、その先の、スポーツ力で社会課題を解決することであり、それができる企業になることです。私は、スポーツには、そして私たちミズノには、それができるとてつもなく大きな力があると信じています。そのためには、社内の仕組みも大きく変わっていく必要があると思うので、このプロジェクトが変化のきっかけにできればと思っています。